未来予測は、過去より現在に学ぶ

人は歴史から学んで、未来を予測します。

でも、それは現代では必ずしも通用しないんじゃないか。未来を予測するというのは、むしろこういうことなんじゃないか。 という話です。

 

僕らが住んでいる2017年は、こういう時代です。

人が増えると、富が増えます。そして、人と富のどちらが増えても、テクノロジーが進歩します。テクノロジー(衣食住や医療)が進歩すると、また人口が増えます。

すると未来は直線的ではなく、倍々で加速しながらこちらへ向かってくることになります。

そんな未来は、どうやって予測すればいいのでしょうか?

直線的な予測法

遠くを予測するのによくある手は、手前と奥で標準を合わせるというやり方です。片目で銃の狙いを定めるように、自分の目と銃口、そして的を一直線に合わせます。

しかし、そのやり方で過去-現在-未来を直線的に眺めようとしても、うまく行きません。

過去数百年の道のりと、これからの道のりは角度が違います。

「以前こうだったから今後もこうだ」というのは、常に成り立つわけではないですよね。それが成り立たない、僕が好きな例にオイラーの素数生成式があります。

$$x = n^2 + n + 41$$

この式は、nに0から39までのどんな数を代入しても、素数を生み出します。

素数の分布は現代でも手探りな深い問いですが、40回連続で素数を生み出す式には神秘のような何かを感じます。しかし、n=40でその法則は崩れてしまいます。過去をどれだけ積み上げても、次の一歩がその延長線上にあるとは限らないということです。

これは、過去に学ぶのが無益だということではありません。学ぶべきことはたくさんありますし、過去に学ばずに生きるのは不可能です。そうではなく、過去から学ぶのには適したことと、そうでないことがあるということです。

法則化できることは、過去から学ぶのに向いています。科学法則はもちろんですが、ことわざや格言になるような、人間がもつ普遍的な性質などがそうです。その一方で、「現象」や「出来事」は再現性がないので、過去から学ぶのに向いていません。「こうしたらこうなった」というのはその時代背景によるものなので、過去に学んでも、そのまま現在や未来に役立てることができません。

POINT

  • 人口やテクノロジーは指数関数的に成長している
  • そんな中、過去をみて未来を予測するのは難しい
  • 過去からは普遍的な法則を学ぶのが良い

現在を調べると、未来が分かる

さて、それでは未来はどうやって予測するのが良いのでしょうか?

過去がダメなら、残るは現在です。過去と現在を結んでその線を未来へ伸ばす、という発想からは離れます。代わりに今いる立ち位置、この「現在」の向きを深く理解するという考え方です。

東京タワーのてっぺんからピンポン玉を落としても、どこに落ちるかをうまく予測することはできません。でも、風向きが分かっていれば予測精度は上がりますし、風の勢いが今この瞬間に弱まってきているのか、あるいはどんどん強くなってるのかというような傾向、あるいは変化率が分かれば、もっと正確な予測ができます。このように、風向きという一つの項目に対しても、より俯瞰的な視点を含めて深く情報を集めていくことが、未来予測には効いてきます。

従来の「直線的な予測法」では、現在と結ぶ過去が遠ければ遠いほど予測が正確になります。ものごとの方角を定める時には、遠くに標準を合わせた方がずれが少ないからです。

一方で、現代の情報から未来を予測するときには、それが逆になります。風向きや風の勢いの情報は、この瞬間に近ければ近いほど有益です。前日の風向きは役に立ちません。当日の風向きでも、特にこの数分間の風向きが大切です。

そして先ほどの例で言うと、風の強さ → その変化率(弱まる/強まる)だけでなく、その先にも続きがあります。「風の変化率、の変化率」です。たとえば「風が強まってはいるが、そろそろピークを迎えそうだ」というような情報がそれです。このように単なる風の情報も、よりメタ、さらにメタな視点から見ることで見通しを良くすることができます

まだ抽象的なままですが、一旦まとめます。未来を予測するためには、次の2点が重要です。

POINT

  • 現在、つまり最先端に近い情報ほど有益
  • 目の前の事実も有用だが、それを支配するよりメタな視点も大切

ではどうするのか?

特にテクノロジーの領域では、この「最先端の情報」というのが、世の中に格差を生む原因になっていると感じます。僕らがニュースで聞く情報は、最先端からすると周回遅れになった情報です。その情報から予測する未来は大きくズレてしまいます。最先端の情報を得るには、自身が最先端の一人になるか、何らかの手段でフロンティアの現状を仕入れ続けるかです。

世間では、パソコンが使えなくて仕事が遅い団塊の世代、あるいは今でもガラケーを使っている年長者を笑う若者がいるかもしれません。「パソコンが使えないとこれからは大変ですよ」と教えてくれる人は、おそらく20年前にいなかったのでしょう。でもそれは現代も同じです。新しい技術を「そんなのもあるのか」と傍観していると、差が差を呼んでいつの間にか置いてかれてしまいます。

もう一つのポイントである「メタな視点」にはいくつかの軸があり、「応用から基礎へ」というのもその一つです。新しいAIのプロダクトを追い続けるのも良いのですが、AIの技術を知ることでプロダクトの方向性は事前に予測できます。またそれら技術の背景には統計学や情報処理技術があって、さらに元をたどると数学や論理学に辿り着きます。上位の視点をもっていると、このように全体を見渡しながら未来を予測することができます。

すべての分野で最先端に居続けるのは不可能な時代です。いかに信頼できる情報源をもっているか、そして新しい技術にキャッチアップしておくかというのは、格差を作られる側にならないために必要なスキルだと感じています。

 

おまけ

今回の話は、テイラー展開の話でした。

関数 \(f(x)\) があって、ある点 \(x_0\) を考えたときに、そこから未来にずれた点 \(x_0+h\) での \(f\) の値 \(f(x_0+h)\) を、\(x_0\) における \(f\)と \(f\)の微分で表すのがテイラー展開です。

$$f(x_0+h) = f(x_0) + \frac{f’(x_0)h}{1!} + \frac{f’’(x_0)h^2}{2!} + …$$

\(f(x)\) は時代 \(x\) を変数としてもち評価値を返す関数、\(x_0\) が2017年現在で、予測したい\(h\) 年後の未来について展開したのが上の式です。

現在地 \(x_0\) から \(h\) だけ未来にある点を予測するには、\(f(x)\) を知っている必要はないということです。\(f(x)\) の式や \(f(x_0+h)\) の値が分からなくても、\(f(x_0)\) , \(f’(x_0)\), \(f’’(x_0)\) という現在に関する知見のみで未来は記述することができます。

実際に未来を数式化できると言いたいわけではないのですが、未来予測に過去の情報は必須でなく、現在について深く理解することが大切というのが、この記事で表現したいと思っていることです。